乳腺・内分泌外科グループ

専門的な乳腺診療
~一人ひとりの患者さんに最適な治療方法を選択します~

グループの特徴

乳がんは今や全世界で男女合わせて発生するがんの第一位になり、日本人女性の9人に1人が乳がんに罹患します。乳がんの特徴として 40 代から罹患率が急上昇し、50 歳~65 歳にピークを迎えます。この年代の女性は、家庭内でも社会においても中心的な働きをする年齢ですので、乳がんの早期発見と治療は重要な問題です。 【図1】 

近年の乳腺診療は放射線科および放射線部(画像診断)、病理部(病理診断)、放射 線治療科(放射線治療)、腫瘍内科(化学療法 ・ 分子標的療法・ゲノム医療)、盗床遺伝診療部(HBOC 等の遺伝診療)、産科・婦人科(若年女性の妊よう性維持)、形成外科(乳房再建)、薬剤部(薬剤指導・副作用管理)、看護部門(乳がん看護認定看護師やリンパ浮腫外来など)、 医療ソーシャルワーカー等の連携による総合的な診療が求められています。

 当院はこれらの領域の専門医が多数所属する大学病院であり、多職種が連携してチームとなった「乳腺センター」を開設しました。各診療部門間の連携をより綿密にして、 患者さんの更なる利便性向上を図って参りますが、乳腺内分泌外科はその中心的役割を担っています。

 

【図1】部位別がんの罹患率の推移(日本人女性)

【図1】  部位別がんの罹患率の推移(日本人女性)

対象疾患

私たちは乳がんを中心に、乳腺症、乳腺炎、線維腺腫、葉状腫瘍など乳腺疾患全般、並びに内分泌外科疾患を対象として診療を行っています。また出雲市乳がん検診、他施設の検診で要精査となった方の精密検査を行っています。乳がんと診断された方には、適切、最善な治療を、患者さん個々の病状や希望に合わせて提供できるよう、乳腺チームとして診療にあたっています。

【乳房に症状のある方】

自己検診で乳房に症状のある方、乳がん検診で要精密検査となった方は乳腺外来を受診してください。診察のうえ、マンモグラフィ、乳房超音波検査を行います。異常があった場合、穿刺吸引細胞診、針生検、マンモトーム生検、乳房MRIを行うことがあります。マンモトーム生検、乳房MRIは予約のうえ、後日となります。 【図2】  

※乳腺外来についての予約・問い合せ先:地域医療連携センター
TEL.0853-20-2061

 

【図2】乳がんの自己検診法

【図2】 乳がんの自己検診法

検査方法

  • マンモグラフィ:
    乳房専用のX線撮影です。乳房を引き出して圧迫板で挟み、圧し広げた状態で撮影します。当院のマンモグラフィは3次元撮影技術であるトモシンセシスを搭載しており、従来のマンモグラフィと比較して、より精度の高い画像を得ることができます。

  • 乳房超音波検査:
    乳房内にしこりがあるかどうかの診断に有効です。多くの場合、しこりの性状で良性か悪性かを判断することができます。特に、乳腺の発達した30歳代では、マンモグラフィより有用な場合があります。

  • 乳房MRI:
    ガドリニウムという造影剤を用いて検査を行います。検査時間は30分程度です。マンモグラフィや乳房超音波検査ではみつけにくい小さな病変を描出することができます。

  • 穿刺吸引細胞診:
    病変部に細い針を刺して、吸い出した細胞を顕微鏡で観察します。多くの場合、局所麻酔なしで行います。体への負担は少ないですが、確定診断に至らないことがあります。

  • 針生検・USガイド下マンモト−ム生検:
    局所麻酔をした上で、病変部に少し太い針をさして、中の組織を取る方法です。超音波で採取部位を確認しながら行います。穿刺吸引細胞診に比べて、より正確な診断が可能です。

  • ステレオガイド下マンモトーム生検:
    専用のベッドにうつぶせで寝ていただき、マンモグラフィ撮影をしながら、病変部に針をさし、組織を採取する検査です。マンモグラフィで石灰化という所見のみが指摘され、超音波検査では病変の部位がはっきりしない場合に、この方法を用います。極めて初期の乳がんを診断することができます。当院では、毎週金曜日に、一泊入院で行っています。

術式

初期治療

乳がんと診断されて最初に行う治療のことを初期治療といいます。初期治療は、手術、薬物治療、放射線治療からなりますが、患者さん一人ひとりで治療の組み合わせや順序は異なります。【図3】

 

【図3】乳がん初期治療の3本柱

【図3】 乳がん初期治療の3本柱

(1)手術

乳がんの手術には、乳房温存手術と乳房切除術がありますが、当科では希望に応じて乳房を可能な限り温存する方針で診療に臨んでいます。また皮膚の切開部位の工夫や、内視鏡の使用により、術後の整容性を高く保つように努力しています。センチネルリンパ節生検術についてはリンフォシンチグラフィと蛍光色素法を併用し、より低侵襲に行うように努めています。

(2)薬物治療

乳がんの薬物治療にはホルモン治療、抗がん剤治療、分子標的治療等があります。乳がんは比較的早期から小さな転移が全身に生じることがわかっており(微小転移)、これを根絶するためには全身的な薬物治療が必要となります。薬物治療にはそれぞれ特徴的な副作用があり、特に化学療法は患者さんにとって大きな負担となります。そのため、医師と薬剤師が連携し、綿密な副作用対策を行っています。

(3)放射線治療

乳房を温存された方、乳房を切除したがリンパ節転移が高度にあった方を対象に行います。治療期間は5~6週間です。遠方の方を除き、基本的に外来で行います。

再発治療:
乳がんが再発した場合や、他の臓器(肺、骨、肝臓、脳など)に転移をきたした場合は、根治することが非常に困難となります。そのため、がんの進行を抑え、症状を和らげる治療が中心となります。薬物治療が中心となりますが、必要時には外科的治療や放射線治療を行うことがあります。病状や治療の選択肢について患者さんが納得できるまで説明し、患者さんそれぞれの希望や価値観を考慮して治療方針を決めるように務めています。

【乳房再建について】

当院は、乳腺外科と形成外科が連携して、乳房再建手術に取り組んでいます。日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会の実施施設認定を受け、乳癌や乳腺腫瘍で乳房を失った方に対するインプラント(人工乳房)を用いた乳房再建手術を行っています。また腹直筋皮弁、広背筋皮弁等の自家組織を用いた乳房再建手術も行っています。【図4】

詳しいことをお知りになりたい方は、お気軽にご相談ください。

※乳房再建についての問い合せ先:外科外来受付
TEL.0853-20-2384

 

【図4】乳房再建の術式による分類

 

自家組織による再建

人工物による再建

概要

患者さん自身のお腹や背中の組織(自家組織)を
乳房として胸に移植する方法

インプラントという人工の乳房を挿入して、
胸のふくらみを作る方法

利点
  • あたたかい
  • 体になじむ
  • 手技が簡単で手術時間が短い
欠点
  • 皮弁採取部位に傷あとが残る
  • 手技が困難で手術時間が長い
  • 術後の痛みが強い
  • 下垂乳房にはむかない

 

【乳がん遺伝子検査をご希望の方へ】

乳がんの5~10%は遺伝性であり、その多くはBRCA1またはBRCA2遺伝子の変異が原因です。遺伝性乳がんの可能性が疑われる場合、当院ではこれらの遺伝子検査を受けることが可能です。遺伝子検査は通常の採血で行うことができますが、まず医師による遺伝カウンセリングをうけていただきます。その上で、遺伝子検査を受けるかどうかを患者さんの自由意志に基いて決定していただきます。ご相談のある方やご希望の方は、ご連絡ください。

※乳がん遺伝子検査についての問い合せ先:臨床遺伝診療部
TEL.0853-20-2383

診療実績

日本乳癌学会認定施設として、当院の乳がん手術症例はコロナ禍を経て、右肩上がりで増えており、令和5年は年間約150件になります。【図5】

 

【図5】手術件数の年次推移

【図6】 手術件数の年次推移

 

スタッフ紹介

  • 板倉 正幸(准教授、乳腺センター センター長) 
    S59年卒

  • 宮﨑 佳子(医科医員)     
    H27年卒

  • 藪田  愛(医科医員)     
    H29年卒

乳腺センター

  • 角舎 学行(准教授、乳腺センター 副センター長) 
    H4年卒

  • 末岡 智志(助教)       
    H24年卒